フルームのsalbutamolドーピング疑惑について専門家の意見と過去の事例
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さて、昨日の夜に飛び込んできたフルームによるドーピング疑惑。猿豚モール(salbutamol)異常値の件。別に許容値の2倍という値が出たからといって、ルール上すぐにドーピング違反になるわけでもないし、タイトル剥奪ということにもならへん。ただ説明義務が課されるというだけ。これは各所の報道どおり。
そんなフルームに疑惑にも関わらず、「たぶんチームSkyにはあんまり影響ないで」という意見のご紹介。
チームSkyを憎む、嫌う人間は多い。そんな人間にとって今回の件は「やったぜ!」という感じやろね。一方、チームSkyファンはやるせないやろね。ま、ネット上では基本的にどんな分野でもアンチが目立つから、チームSkyアンチの声が多いのも当然。ネットなんてそんなもんや。
で、ワシもそのアンチの声に乗っかって、アンチ派の人間を都合よく利用して記事を書いてもよかったんやけど、みんなと同じことしてもしゃーないし、ネット上の声とはちょっと異なる考えをご紹介することにした。ちょうどそんな記事があったしね。
目次
(1)今回のフルームの疑惑に関する専門家の考え方:salbutamolには期待するほどの効果はない?
①アンチドーピング機構のエージェント、Zigor Moltavoの意見
スぺインのアンチドーピング機構のZigor Moltavoは、同国の日刊スポーツ紙Marcaでこう述べてる。
“It’s a substance that can be used up to a certain level. If you go above that level it could be as a result more excessive use than normal, but in reality the benefits that it can offer are very limited.”
訳「猿豚モールは使うにしても限界がある。もしそれを超えると結果として使いすぎということになるやろ。でも、実際には猿豚モールをぎょうさん使ったところで得られる効果なんてめっちゃ限られててほとんど意味ないで」
②かつてフルームの身体テストをしていた運動科学の専門家Jeroen Swartの意見
2015年にフルームの身体検査をしていた運動科学の専門家 Jeroen Swartは、Twitterで今回の件についてこう書いてる。
“naturally disappointing but not entirely surprising.”
訳「もちろんがっかりやわ。でも、まぁたいして驚いてへん」
で、今回の検査結果や報道内容に関してちょっと奇妙な点があると言うて、こう指摘してる。
1つ目の奇妙な点は猿豚モールについて言われる運動能力向上という効果の点についてや。
“The performance-enhancing effects of beta agonists [like salbutamol] are not at all convincing and the balance of literature shows no effect.”
訳「能力を向上させる効果という点についていうと、猿豚モールと同種のbeta agonist(交感神経β2受容体作動薬)には全く確証ないし、学問上、効果なしという考えが有力や」
せやから、猿豚モールにもそんな能力向上効果なんてあらへんと言うわけやね。この考えは、↑①のアンチドーピング機構の考え方と同じやね。猿豚モールをたくさん取ったからいうて、効果なんてあらへんと。仮にあっても、誤差レベルみたいなもんやろというわけやね。
次に2つ目の奇妙な点についてや。 Jeroen Swartはこう言う。
“If you know you’re going to be tested (as Froome would) then you would basically knowingly commit career suicide,”
訳「そんなん検査されるとわかってるのに、故意でやるとか自殺行為やろ」
フルームなんて毎回検査されるのが当たり前の選手。ましてやブエルタで勝利したわけで、なおさら厳しく検査されるのは本人もわかってたはず。しかもツールじゃなくてブエルタで?
ま、部ブエルタのほうがきついからというのはあるかもしれへんね。
また続けてこう言う。
“That said, the WADA threshold of 1000ng/ml was set so that therapeutic doses would not exceed that limit. Based on the pharmacokinetic studies the limit is set very high.”
訳「WADA(世界アンチドーピング機関)は、1000ng/ml を閾値として定めてるから、薬の効果がでる量(治療量・薬用量)はそれを超えたらアカン。でも薬物動態の研究によれば、閾値はもっと高いで」
これはつまり、WADAが設定してる基準は非科学的で科学的根拠のないデタラメなもんやと批判してるんや、とは言い過ぎやろうけど、「WADAもなんかおかしくね?」と言うてるわけやね。
というわけで、①と②で2人の専門家の意見をご紹介。もちろんWADAの言い分・考え方をそのまま肯定する専門家・学者もいるやろね。でも今回の記事の趣旨は、上述のように単純なアンチ側の意見とは違う意見を紹介するという趣旨やからね。こんな2つの意見を紹介したブヒ。
(2)なぜ今回のフルームの疑惑でも、チームSkyの評判は悪化しない可能性が?
For today’s #ThrowbackThursday we’re heading back to @LeTour with @VelonCC to get an inside view of @ChrisFroome‘s time in yellow! pic.twitter.com/tomGMSlcal
— Team Sky (@TeamSky) 2017年12月7日
悪化とは悪くなること。なぜ悪化しない可能性があるのか?理由は2つ。
①理由その1
1つ目の理由は、今回の疑惑の前から、すでに悪いから!すでに地に落ちてるから!
ウイギンスの謎の怪しい封筒事件、ジャンニ・モスコンとFDJの選手との騒動の2つの大きな事件が今年あった。それ以前でも、チームSkyには常に怪しい噂はつきまとってた。
②理由その2:楽観論
次に2つめの理由。それは過去の同種の事例との関係。参考になる同種の事例は3つ。
1つ目の事例は、ディエゴ・ウリッシの事例。2014年のジロで猿豚モールの使用で、ルール上の基準値を超えたからアウトに。9か月の出場停止処分とかを課された。
2つ目の事例は、アレッサンドロ・ペタッキの事例。こちらはジロでの猿豚モール使用について。イタリアの五輪委員会がペタッキの処分を求めたものの、同じイタリアの自転車連盟が処分は不要としたまま事態が混迷。スポーツ仲裁裁判所(CAS)にまでもつれこみ、結局CASは処分を決定。
この2つだけ見れば、なんや「結局アウトやんけ」となるんやけど、しかしや、3つ目の事例が話をややこしくさせる。
2006年のツール・ド・フランスの覇者オスカル・ペレイロの事例。覚えてる人多いと思うけど、ランディスが総合優勝したんやけどドーピング違反で優勝取消し、そして繰り上げでペレイロが総合優勝者として確定した年や。でも、ペレイロもまた猿豚モールの値で陽性が出てる。でも。総合優勝は取り消されてない。なんでかというたら、ペレイロ側が正当な理由に基づく喘息薬の使用だったからと、「納得のいく説明をしたから」。つまり説明さえちゃんとすれば……?
つまり楽観論があるわけ。希望(いいのか悪いのか)はあるわけよ。だからセーフになる可能性もある。
さぁどうなるやろねぇ。別にロードレースに限らず、公害問題でもそうやし、新薬承認どうこうでもそうやし、会社の新製品開発でもそうやろうけど、純粋に単純に科学的根拠に基づいて、学術的研究結果に基づいてアウト・セーフまたは採用・不採用が判断されるなんてのは、そんなんは狭い研究室の中だけの話であって、まず世の中には存在せーへん。
間違いなく多数の関係者の主観や政治的判断に左右されるもんや。決定はデータという事実に基づくのではなく、データについての「評価」に基づくからね。だいたい狭い研究室の中でさえめんどくさい人間関係があるわけで。んなぁ~。
(関連する過去記事とか、1つ前・後の記事は下のほうにあるで)