UCIがレース中の脳震盪への新しい対応ルールを発表
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さきほどの記事ではロードレースの安全性を改善させるため、UCIが発表した新しい施策を紹介した。今回はそのうちの一つ、レース中の落車などで脳震盪を起こした(その疑いがある)場合はどのようにすべきかという新ルールについて。
UCIは次のドキュメントでそのルールを発表している。
UCI公式ドキュメント(PDF):CYCLING-SPECIFIC SPORT RELATED CONCUSSION
問題をややこしくするロードレース特有の事情
まず、脳震盪と思われる選手への対応をどうするかはロードレース特有の難しい事情がある。それは以下のような点である。
- 高速でレースが動くため、選手やチームは出来る限り早くバイクにまたがってリスタートしたい
- 狭い道、大勢の観客、様々な車両、大勢のプロトンなど医師や専門医療スタッフを乗せた車がなかなか現場に駆けつけられない
一方で脳に関わる問題であるため、早期の適切な診断と手当の必要性が高い。また「念のため」リタイアという判断の重要性も大きい。
上記のロードレース特有の事情と、こういった早急な措置の必要性とを現実的なレベルで調整・両立させなければならない。
UCIによる新ルールの肝
上記公式ドキュメントにはいろいろ書かれているが、今回の新ルールでおそらく最も肝要な部分は、上述のようになかなか現場に駆けつけられない医師や医療スタッフではなく、チームカーに乗る主要スタッフが「第一段階として」脳震盪の有無とその程度の判断を行っても良いというルールになったのである。
もちろん潜在的な脳震盪の有無やその程度といった医学的な判断というのは、素人にすぐできることではない。そこでUCIは、UCI内部の医療専門部署などとともに脳震盪を確かめるためのチェックリストを作成。それらを各チームなどに配布し、チームスタッフなどはそのリストに従いまずは早急な暫定的チェックを行うことにしたのである。
そのチェック項目には、脳震盪のチェックでよく使われるいわゆる「マドックの質問(Maddocks Question)」を若干アレンジしたものも含まれている。たとえば、「今走っているレースの名前はなんですか?」、「何月何日ですか?」と質問するアレである。
おそらく今後はUCI主導またはチーム主導で、チーム内スタッフに対してその種の説明会や講習が行われるようになるであろう。
こういった第一段階での暫定的対応はもちろん医師など専門家がかけつけられない状況でのものであり、医師の権限や判断を排除するものではない。たとえば、医師も現場に到達するまでにレース映像を見て、それによりある程度分析を行っている。最終的には医師など専門家の判断が最大限尊重される。
また、脳震盪が疑われる選手の情報は即座に共有され、すぐにリタイアさせるかどうかの判断を可能な限り早く行えるようにしている。
加えて脳震盪など脳のダメージは、遅れて症状が現れる場合もある。そこでそれが疑われる選手はレース後すぐに脳震盪チェックを、さらに翌日にもチェックを受け、医師などの判断を仰がなければならない仕組みとなる。
そしてもし脳震盪があれば、たとえ症状がなくなってもそこから最低でも1週間は休養期間を過ごしたうえでないと復帰はできないようになる(ジュニア選手は最低2週間)。