アメリカの育成システムの裏で進行する病とは?空洞化の危機が迫る
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最近はアメリカ人の若い才能が本場ヨーロッパのロードレースで存在感を示している。Jumbo-Vismaが誇るスーパーアシストのセップ・クスをはじめてとして、つい先日19歳でプロ初勝利をあげたINEOS Grenadiersのマグナス・シェフィールド(Magnus Sheffield)、EF Education-EasyPostのニールソン・ポーレス(Neilson Powless)、Trek-Segafredoのクイン・シモンズ(Quinn Simmons)、そしてUAEのブランドン・マクナルティ(Brandon McNulty)などがその代表だ。
アメリカのProTeamやコンチネンタルチームによる育成とヨーロッパへの送り出しという同国のシステムはこれまで順調なように思われ、今後も続々とアメリカの才能が本場で花開くと期待されるところだ。
だがしかし、そのアメリカ国内のベテラン指導者から、これから先はそううまくいかない、アメリカからの若い才能の飛躍が続かないかもしれないという悲観的な意見が出ているようだ。いったいなぜなのか?
情報源:Concern grows over future pipeline of young US riders
「今のままだと今後は厳しい」という考えを述べるのが、現在アメリカのProTeamであるヒューマン・パワード・ヘルス(Human Powered Health)でスポーツディレクターをするJonas Carneyだ。
これまで多くの10代の選手を指導してきた彼だが、おもに次の2つの理由でこれからは厳しいかもしれないと述べる。
理由の1つめは、かつてアメリカ最大のロードレースだったツアー・オブ・カリフォルニアの消滅に象徴されるようおに、アメリカ国内での大きなロードレースがなくなっていることだ。これにより選手が活躍する場所やレース経験を積むチャンスがかなり減少することになる。
たとえアマチュアでもレースに出ている人は実感しているかもしれないが、小さな大会のレースと大規模な大会のレースとはいろいろ別物だと思われる。特にUCI関係の大きなレースならば、参加する選手・チームのレベルも高く、そうしたより上位の存在から学べることが多いはず。高いレベルを体験できることは若い世代にとっては大きな財産となり、またモチベーションにもなるだろう。
理由の2つめは、アメリカ国内チームが減少していること。これは若い選手を育成する組織が減ることを意味する。また所属チームがなければ、個人でヨーロッパのチームなどに営業をかける必要がある。本場ヨーロッパとのコネクションを作りやすいという意味でもチームに所属しているということは重要だ。
このような現状の背景にはやはりコロナ禍というのも影響している。
若い選手の中でも、アメリカチームを経ずに直接ヨーロッパへ渡ることを決断する選手もいるようだ。それが増えれば、アメリカ国内のチームやレースの空洞化を招くことになるかもしれない。製造業でいえば海外への生産拠点の移転による国内産業の空洞化というものに近いだろうか。しかし、Jonas Carneyはそうした決断を責めることはできないと述べている。
このように今は順調に見えるアメリカの育成システムも、その裏では危機が迫っているようだ。日本の場合はどうだろうか。
アメリカの国内チームや大きなレースが増えれば、アメリカでのロードレース人気も拡大する。アメリカという世界最大のスポーツビジネス大国における人気向上は、世界的なロードレースの人気拡大やビジネスマネーの流入をもたらすことになるだろう。ロードレース界全体が潤うという未来のためにも、先述のようなアメリカでの空洞化は避けてほしいところ。
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