なぜ、UCI&WADAはフルームに無罪決定をしたのか?その理由・ポイントは?
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さて、昨日のUCIからの電撃ニュースによって、フルームの無罪が確定したわけやけど(本当に何もやってないかどうかは知らんで。結局真実は闇の中よ)、UCIはWADA(世界アンチドーピング機構)の判断をそのまま尊重しただけ。実質的な判断権者はWADAといえる。それでは、WADAの判断の内容と、無罪のポイントなった理由は何なのか?
(1) これまでのおさらい:フルームとサルブタモール
サルブタモールってのは簡単にいえば喘息薬。でも、副次効果として使用者の身体能力向上効果が「ちょびっと」だけある。そして、現行のルール上では以下のような規制がある。
・WADA(世界アンチドーピング機構)の禁止薬物リスト(WADA 2017 Prohibited List)に入ってる。
・一定の手続きを踏めば、使用可能。もちろん治療目的で。
・許されてる最大服用量は、24時間で最大1600mg、または12時間ごとに最大800mg。
・尿から1ml中1200ng(ナノグラム)以内ならばセーフ。たとえ上記最大服用量を守っていても尿から異常値がでたらダメ
・異常値が検出されれば原則ギルティー。治療目的ではなくドーピング目的であるとの推定がされる。それゆえ選手側でその推定を覆す証拠を提出せなアカン。
・上記推定を覆すための証拠は、controlled pharmacokinetic study(CPKS:薬物動態学上の管理化臨床試験・対照試験)での資料で提出せなアカン。
ところが、フルームは去年のブエルタでの検査で、尿サンプルから上記1200ngの倍の値が出てもうた。ただし、実際にはいろいろ複雑な事情があって、倍ではなくてそれ以下の値に修正されてる。でもま、1200ng以内とは言えない数値であったことは確か。それ以内やったらそもそも問題になってないわけやしね。
で、フルーム&チームSky側が猛反論。超有能弁護士軍団を雇って徹底抗戦。そして審理が長引いていたわけ。
(2) UCI&WADAによる無罪判断の理由は?
今回UCIはWADAの判断をほぼそのまま受け入れてのフルームの無罪を決定した。そこで、WADAがどんな考えなのかというと、以下の3点がそのポイントになってる。これは、WADAが公開してる公式声明の一部をそのまま引用したものや。
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Based on a number of factors that are specific to the case of Mr. Froome — including, in particular, a significant increase in dose, over a short period prior to the doping control, in connection with a documented illness; as well as, demonstrated within-subject variability in the excretion of Salbutamol — WADA concluded that the sample result was not inconsistent with the ingestion of inhaled Salbutamol within the permitted maximum dose.
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WADA recognizes that, in rare cases, athletes may exceed the decision limit concentration (of 1200 ng of Salbutamol per ml of urine) without exceeding the maximum inhaled dose. This is precisely why the Prohibited List allows for athletes that exceed the decision limit to demonstrate, typically through a controlled pharmacokinetic study (CPKS) as permitted by the Prohibited List, that the relevant concentration is compatible with a permissible, inhaled dose.
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In Mr. Froome’s case, WADA accepts that a CPKS would not have been practicable as it would not have been possible to adequately recreate the unique circumstances that preceded the 7 September doping control (e.g. illness, use of medication, chronic use of Salbutamol at varying doses over the course of weeks of high intensity competition)
(From WADA, “WADA will not appeal UCI decision in Christopher Froome case”)
長い、というほど長くもなんともないけど、キーボード打つのダルいからテキトーに要点をまとめると次のようになる。下①~③は上記WADA声明の1~3に順番どおりに対応させてある。
①フルームの当時の状況や身体的特徴を考慮すると、検出された異常値は、ルール上の最大服用量に従ったという主張と矛盾せーへん。
②WADAとしては、ルール上の最大服用量未満でも尿から異常値が出ることがあると認める。だからこそ選手側からのCPKSによる反論を認めてるわけよ。
③またWADAとしては、「今回のフルームの件については」、そのCPKSってのは役に立たへんということも認める。当時フルームが置かれてた過酷な環境・条件、そして身体的状況などを再現できひんからや。再現できひんのに、再現実験を要求するとか無茶ぶりすぎやろ。
https://bikenewsmag.com/2016/12/06/skyfunctional-dehydration/
ということや。わかったかな?
つまり、そもそもフツーに異常値が出ることもあるし、さらにフルームの場合については異常値が出たときの状況を再現することはできひんから、不可能な反論をフルーム側に要求してることになる。そんなん反論の機会・権利を実質的に奪ってるに等しい。法は不可能を要求してはいけない、ってのは「法そのもののルール」やからね。
もっと乱暴にまとめてしまうと、
フルームの今回の件は超例外的にセーフ
ということや。わかったね、はいおしまい。
なお、元チームSkyのチームドクターだった医師が本を出版するで。これは以前も記事にしたけどね。興味あればどぞ。
Amazon:The Line: Where Medicine and Sport Collide (English Edition)
(3) これまでのフルーム&チームSky関連の疑惑過去記事
参考までに、今回の問題に関連した過去記事を一部だけ再びご紹介しとくで。暇つぶしとして楽しめ。
https://bikenewsmag.com/2017/01/31/sky-7/
https://bikenewsmag.com/2018/04/07/tomboonen-defends-teamskyandcrhisfroome-against-salbtamol-doping-scandal/
https://bikenewsmag.com/2017/12/16/froome-hires-lawyer-who-ever-dealt-with-contordor-and-bruyneel/
今年のツール出場選手リストはこちら↓
https://bikenewsmag.com/2018/06/26/who-to-race-at-tourdefrance/
なんだかWADAも「ほれみろ2000超えてたゾ!」って騒いだのにいきなり「実は1400でした。テヘ」なんてチョー適当だし、ほんとよくわからんですね。
競技後の検査では数値が安定しないのだったら競技前にも検体とって比較するとか、それぐらいやればいいのに。
個人的な心証としてはフルームはサルブタモールを意図的に使ってはいないと思ってますが、それにしても不可解なことだらけ…
たしかにゴチャゴチャと物語が展開されて、結論は妥当だとしてもそこまでの過程がややこしいってのはあるブヒね。
時間かけすぎ&長引きすぎって批判もあると思うブヒが、そこはフルーム側の反論・反証の機会&手続きがきちんと与えられていたということでもあるので、ま、しゃーないねという感じブヒね。