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急成長する女子ロードレースに「年俸バブル」の懸念。ツール・ド・フランス・ファム人気の裏でチーム経営に警鐘
現在開催中の女子版ツール・ド・フランスことツール・ド・フランス・ファム。
2022年に現在のステージレースとしてスタートして以来、世界最高峰の女子ロードレースとして急速に存在感を高め、観客数やテレビ視聴者数だけでなく、スポンサーからの投資も拡大している。
しかし、その急成長が新たな問題を生みつつある。
女子プロチームのFenix-Premier Techのチームマネージャー、フィリップ・ルードホーフト(Philip Roodhooft)は、女子ロードレースへの投資や選手の年俸について競技そのものが生み出す商業的価値を上回るペースで増加している可能性を指摘し、現在の女子ロードレースの経済モデルには持続可能性という大きな課題があると警告している。
女子ロードレースの人気拡大を示す数字が、2026年ツール・ド・フランス・ファムのテレビ視聴者数だ。
フランスでは第1ステージを217万人が視聴し、視聴占有率は27.6%。翌日の第2ステージではさらに増加し、視聴者数251万人、視聴率30.1%を記録したらしい。
放送日や時間帯などが異なるため単純比較はできないものの、これは男子ツール・ド・フランスの同様のステージに対して、およそ80%に相当する規模だとされている。
ツール・ド・フランス・ファムがスタートして5年。ルードホーフトによれば、沿道の観客も増加しており、特に2025年にはフランスのポリーヌ・フェランプレヴォが総合優勝争いに加わったことで大きな盛り上がりを見せた。
現在では大会を取り巻く熱気そのものが男子ツールに近づきつつあるという。
問題は、人気と収益の成長以上のスピードでチームが負担するコストが膨らみつつあることだ。
女子ワールドチームの平均予算は現在、467万ユーロ(約8億5100万円)にまで上昇。一部の有力チームは、ツール・ド・フランス・ファムで勝利するため、それ以上の資金を投入しているとされる。
そして女子チームを持つ意味そのものも変わった。
以前なら企業や男子チームが社会的意義やブランドイメージを重視して女子チームを設立する側面もあった。しかし現在ではLidl-TrekやUAEなどを含め、本格的に「勝つための女子チーム」へと投資するケースが増えている。
その結果、女子ロードレースでも資金力による競争が激しくなった。
ルードホーフトによれば、男子カテゴリーでは圧倒的な存在ではないチームが女子カテゴリーでは支配的なチームになるために積極投資するケースもある。一方、FDJ、Canyon-SRAM、SD Worxなど女子ロードレースを代表するチームも大きな予算を確保している。
こうしてトップチームと小規模チームの格差が急速に広がっている。強い選手を獲得するのは高い年俸を用意する必要がある。
一方で膨れ上がるそのようなチームのコストを減らす工夫もチームによっては可能だ。
たとえば、Fenix-Premier Techの場合、男子チームがツール・ド・フランスで使用した設備を、そのまま女子チームのツール・ド・フランス・ファムでも流用できる。車両、スタッフ、トレーニング設備、リカバリー機器、物流システムなどを男女チームで共有できれば、投資効率を高められる。
しかし独立した女子チームの場合、こうした設備や物流システムを女子チームだけのために用意しなければならない。
女子ロードレースへの投資額が大きくなるほど、男子チームとの設備共有による「規模の経済」を実現できるチームとそうでないチームとの間の格差が拡大するかもしれない。
特にルードホーフトが問題視しているのが選手年俸だ。
女子ロードレースへの投資拡大によって優秀な選手を獲得する競争が激化した一方、それに見合うだけのトップレベルの選手層がまだ十分に厚くないという。その結果、一部の有力選手の市場価値が急上昇している。
ルードホーフトは現在について、「論理に反するような年俸が支払われている」と指摘する。
つまり、チーム数や投資額の拡大に対して即戦力となるトップ選手の供給が追いつかず、選手獲得競争によって年俸が実力やチーム収益以上に押し上げられているという見方だ。
もちろん、女子選手の年俸などの待遇が改善されることそのことは素晴らしいものであり、重要なことである。
ただ問題なのは、スポンサー収入、レースの商業価値、年間カレンダーなど競技全体の経済規模と、高騰する年俸のバランスが取れているかという点だ。
特に、女子ロードレース特有の問題として挙げられるのが、年間カレンダーの規模だ。
ルードホーフトの考えでは、大きな商業的価値を持つステージレースはジロ・デ・イタリア・ウィメンとツール・ド・フランス・ファムが中心で、それ以外では重要なワンデーレースが10レース程度。
結果として、スポンサーにとって十分な露出を期待できるレース日は年間25~30日程度しかないという。一方で男子のツール・ド・フランスはそれだけで3週間のお祭りだ。
投資額や年俸が男子ロードレースに近づいていくのであれば、それを支えるだけのレース日数、テレビ露出、スポンサー価値も必要になるのは当然だろう。しかし、現時点では経済的に価値のあるレース日数が少なすぎるというわけだ。ここに現在の女子ロードレースが抱える構造的な問題がある。
また、財政面への懸念を示しているのはFenix-Premier Techだけではない。
デミ・フォレリングを擁するFDJ United-Suezは約500万ユーロ規模(約9億1100万円)の予算を持つとされ、さらにRed Bullとのパートナーシップも発表している。
それでもチームマネージャー兼オーナーのステファン・デルクール(Stephen Delcourt)は、女子ロードレースのコストがインフレ率を上回るペースで増加していることを以前から問題視してきた。
女子ワールドチームには15の枠が用意されているにもかかわらず、申請するチームが14しかない状況もあり、資金力のあるトップチーム以外が最高カテゴリーで戦い続ける難しさが浮き彫りになっている。
現在の女子ロードレースは、ツール・ド・フランス・ファムの視聴者数や沿道の観客数が示すように、ファンからの需要は明確に拡大している。
だからこそ次の課題となるのが、その人気を持続可能なビジネスモデルへ転換できるかだ。
選手層をさらに厚くし、年間カレンダーを充実させ、テレビやストリーミングで露出するレースを増やす。そしてスポンサーが投資に見合った価値を得られる環境を作る必要がある。
選手年俸やチーム予算だけが先行して拡大すれば、資金力の弱いチームが淘汰され、最終的には少数の巨大チームだけがトップ選手を独占する状況にもなりかねない。
これから問われるのは「人気を得られるかどうか」ではなく、「持続可能なビジネス構造へ変えられるかどうか」なのかもしれない。