AIはレース中の選手を識別できるか?
Share your love
昨今は、日本でも欧米企業のビジネスの流行を取り入れ、「データドリブンな経営」を目指し、AI、機械学習、ディープラーニング、ビッグデータやらが注目を浴びている。その最先端を行くアメリカではすでに下火になりつつある(現実に気づいた)らしいが、日本ではまだまだ伸び盛りのもよう。
そんなAIを使った実験がロードレースでもなされている。それは、視聴者が選手を識別しやすくなるよう、AIにより自動的にレース映像に選手の名前などのデータを表示しようというものである。今回紹介する実験は、ベルギーのゲント(Ghent)大学のIDLabのSteven VerstocktとJelle De Bockが率いるチームによてなされた。
情報源:Could AI be the future of bike race coverage?
その実験の一例が、このシクロクロスレースの動画である。
(‘A`)・・・見やすいかこれ?
という感想はさておき、こういったAIによる選手識別実験の検証データ(レポート)が下記リンクで公開されている。
レポート:Data-driven Summarization of Broadcasted Cycling Races by Automatic Team and Rider Recognition
現状の課題
まず顔のデータによって自動的に判断する方法(iPhoneとかの顔認証っぽいもの)では、そもそも画面に顔が映っていないとデータが得られないため無意味である。また、たとえ顔が映っていてもサングラスをかけている場合はどうしても精度は下がる。
次に、ジャージのゼッケンやバイクのゼッケンで判断する方法も、それらが映っていないと無意味であるし、映っていても鮮明に読み取れなければ判断の精度は下がる。
そしてジャージの色ではチームは特定できても個人の特定は無理である。
今後の方向性
上記のように各方法はそれぞれ一長一短である。ではどうすればいいのか?
答えは複数の方法を組み合わせることである。それが今後のAI運用の方向性になると考えられている。
ある1つの方法から判断するのではなく、複数の方法から得られた情報に基づき総合的に判断を下し、選手を特定する。それが今後のあり方として現実的ということである。
また、顔による認証の場合はサングラスの有無が問題となるが、この点、現在のAI業界では、サングラスをつけた場合の顔から個人を特定する方法(アルゴリズム)もすでに開発されている。しかし、この技術は処理が遅いらしい。よってロードレースのように密集した大集団で、しかもリアルタイムに一瞬一瞬で選手が入れ替わるような映像では、その処理が追いつかないという問題があるもよう。
したがって、サングラスをつけていても個人を認識できるその技術に依存するよりは、上(1)における各技術を複合的に組み合わせるほうが現実的であるとのこと。
ロードレース映像におけるAIによる個人の特定は現状でもある程度は可能であるが、まだまだ100%近くの精度とは言えないのが現実である。だが、複数の方法を組み合わせることでその精度を改善することは可能である。
詳しい報告は上の公式レポートを読み込んでもらいたい。
実況・解説も変化する
現状でも複数のカメラによる異なるアングルの映像が、メディア側の実況・解説席に届けられているが、しかし人間の目は2つしかない。同時に確認できる映像は実際にはとても限られる。
またそもそもカメラがとらえていない映像もある。
そこで、今後はカメラの台数を増やすこと(特にシクロクロスなど周回コースはそれが容易)、そしてそのカメラから得られた情報を解説者や実況者に「見える化」させることで、実況や解説の内容・質も変化していくことが予想される。より詳細に、より正確に、より客観的な解説がなされる未来がくるかもしれない。